【黒×DMC】Episode-14:JockPot!!!
心象世界を展開するための魔力が尽き、スパーダの固有結界が崩れる。
頭上から降り注ぐ空の欠片は宝石のように煌き、触れると雪のように溶けた。
もともと、悪魔の血を結晶化させた魔力で維持していた世界である。
赤いオーブの吸収が止まった以上、いずれ修正に負けるのは明白だったのだ。
「チ、どうやら誤ったか」
「あ? 何がだ?」
スパーダとアルトリアが急に戦意を収めた事で、腕の振り下ろす所を失ったダンテは憮然としてリベリオンを遊ばせていた。
だが遣り切れないのはアルトリアも同じである。
固有結界同様、エーテルの塊であるスパーダの身体もまた維持するだけで多量の魔力を消費する。
その対策が、ユニテリウスの用意した素体である。
「この一騎打ちを、中途半端に終わらせてしまったということだ」
彼がここまで実態を保ち、その能力を発揮出来たのはデビルトリガーを引いた直後に発動させた固有結界あってのことだった。
マナの独占と悪魔たちを原料に生成されるオーブの吸収。
あの空間でのみ、スパーダは悪魔として十全の戦闘が可能だったのだ。
それを破談させたのは、宝具――――魔剣スパーダの使用。
ある意味でアルトリアのエクスカリバーは、彼の絶対優位の空間、固有結界を切り裂いていたのだった。
To Cross Over “Devil May Cry”
Episode-14
JackPot!!!
「親父……」
すっかり元に戻った地下倉庫で、アルトリアから完結に事情を聞いたダンテはスパーダの方を振り返った。
彼は宝具の発動を止めた魔剣スパーダを手に、ただ立っている。
その存在感が徐々に希薄になっていくのをダンテは感じた。
彼が、座へと帰る時が近づいているのだ。
「行っちまうのか?」
『――――――』
スパーダは答えない。しかし僅かに頷いた。
彼の天性と与えられた存在意義が、それを捉えていた。
己が、ただでは逝けないことを。
自分が既に、解除不可能なトリガーを引いてしまっている事を。
「下がれ、ダンテ!!」
不意にアルトリアが声を荒らげた。
背中に奔る悪寒にダンテは言われるがまま跳び退き、察知していたスパーダは既に準備を整えていた。
あるタイミングから、胸の『賢者の石』からの魔力供給が途切れているのも、そういう事なのだろう。
魔剣スパーダの発動を最後に、『賢者の石』はただ蠢くのみで何ももたらさない。
『―――――――
だからスパーダは最後の魔力で再び宝具を発動する。
赤黒い刀身から伸びる紅の光刃を確認し、それを胸に当てた。
「親父!」
そして自らの胸を、貫いた。
「バカヤロウ!!」
「待て!」
スパーダの奇行を目にし、衝動的に飛び出そうとしたダンテのコートをアルトリアが掴んだ。
ズッ、という具足の底を擦る音。
父の自傷を止めるために飛び出した自分を何故引き止めると、ダンテはアルトリアを睨む。
「よく見ろ、ダンテ」
何? と怪訝そうな目で視線を彼に向ける。
そこには貫通した刃の背中側からドス黒い魔界の瘴気を噴き出すスパーダの姿があった。
「ウソ、だろ……」
その時、貫通した傷を基点にスパーダの身体に紅いヒビが奔る。
魔界と人界を隔てる封網が、音を立てて引き千切られた。
たちまちのうちに地下室は魔界から届く瘴気に満たされ、左右のドア、割れたガラス戸を通じて外へと流れ出す。
咽かえるような血の臭いと腐臭が鼻をつき、眼を霞ませる。
背筋を、これまで味わったこともないような怖気が這い上がった。
「クソッタレ! これは、魔界が開くぞ」
ダンテにとっては二度目の経験だった。
この場所はユニテリウスの度重なる実験と施術によって、何かのキッカケさえあれば容易く繋がる程に魔界との境界が極めて薄くなっている。
そしてそのキッカケを造る存在、それが彼の心臓に埋め込まれた『賢者の石』である。
さらに無数とも思えるほど出現した悪魔は全て、薄くなった境を更に削るための生贄でもあったのだ。
悪魔が死んでその躯から立ち上がる負気で人界を侵し、その中心で最も魔界との波長が会う場所で『賢者の石』を発動させる。
さて、それらの条件を満たす最も良い方法は何か?
その答えが、『賢者の石』を埋め込んだ素体への英霊スパーダの憑依である。
魔帝は、彼ならば必ず派遣した悪魔どもを蹴散らすと読んだ。
「これは……そういうことか。えげつないな」
そして英霊と成ったとはいえ彼も悪魔。それも世界にその存在を記録された悪魔である。
サーヴァントとしての存在を持ち、魔力を注ぎ続ける限り現世に留まる彼ほど、安定的な“門”の素材としてふさわしい存在はいない。
しかもそこにスパーダを固定してしまえば、自分たちの侵攻を英霊スパーダに阻まれることは無いのだ。
『世界』は、同一存在の重複という矛盾を嫌うのだから。
今回、この図面を描いたのは決してユニテリウスではない。
彼がスパーダの素体となる身体に『賢者の石』を埋め込んだのは、あくまでも身体を維持する為の魔力源としてである。
ならば、黒幕は誰か?
実はかつて彼に人界侵攻を阻まれ、魔界に封印された魔帝こそがこの一件の黒幕だった。
2000年という時間によって封印を噛み千切った彼は、裏で手を回してユニテリウスに『賢者の石』を手に入れさた。
同時に人界と魔界との境界にも干渉し、ユニテリウスに部下の悪魔を召喚させたのである。
彼はそれを自身の技術の成果だと確信したが、それは間違いだ。
人間の欲望を利用して人界を危機に落とすというのは、悪魔が最も得意とする方法であるのだから。
それを召喚されたスパーダはすぐに気付いたものの、その時はもう状況は詰んでいたに等しかった。
唯一あったのが、予想以上に力を蓄えた息子と目の前の女剣士。
彼らが居なければ、もしかしたら“門”の完全開通を赦していたかもしれない。
『 殺れ 』
言葉を奪われた身体で、スパーダは訴えた。
魔剣スパーダの異能では足りない。何でも切れるが、それは魔力あってのこと。
心臓を貫き、刻々と命が削られているとあっては、その真価を発揮できるはずも無いのだ。
だから彼は、指先で深々と突き刺したスパーダの柄を指差した。
此処を、撃てと。
「………チッ。今回だけだぜ、こんなのは」
数秒の逡巡のあと、ダンテはホルスターから銃を抜く。
理不尽、不条理。そんなもの数え切れないほど越えて来た。
姦計にかかり、無残に散るしかない命を幾つも眼にした。
ここでスパーダの決意を無碍にして、世迷言を言うほど彼は青くない。
「せめて、ハデに逝かせてやるよ!」
それしか無いならば、最も己らしい方法で父を葬ろう。
ダンテは両腕を真っ直ぐに伸ばし、一ミリの狂いも無く柄頭を照準する。
「ダンテ、ひとつ貸せ。
一騎打ちも中途半端なうえに、美味しい所まで持って行かれて堪るか」
エクスカリバーを下げ、腕を組んで自分の横に並ぶアルトリアにダンテは無言でアイボリーを渡した。
この時代に居れば機会があったのか、彼女は危なげ無くアイボリーを右手でホールドする。
「なぁお嬢ちゃん。決めゼリフ、憶えてるか?」
二人の持つ拳銃に、それぞれ赤と黒の魔力は収束した。はちきれんばかりの魔力がエボニーとアイボリーを軋ませる。
片や燃えるような赤が遊底を炙り、片や纏わりつくような黒が銃身に渦を巻く。
「ああ。あの品の無いヤツなら、もちろん憶えている」
流し目でダンテを見上げ、一層の魔力を銃に注いだ。
「OK。行くぜ、親父。
湿っぽいのは苦手なんでね、パーっと逝こうか!!」
そして二人は、同じように真っ直ぐスパーダを見つめる。
身体を内側から裂かれる猛痛などものともせず、彼はその貌に壮絶な笑みを浮かべた。
「「 Jockpot !!! 」」
銃声が唱和する。
発射された弾丸は競い合うように加速し、赤と黒が空気に軌跡を刻み込んだ。
二色の尾を引く二つの流星は徐々に接近し、吸い込まれるように魔剣スパーダの柄に突き刺さる。
魔力を存分に吸い込んだそれらは弾丸の常識を超え、魔剣は勢いをそのままにスパーダの左胸を大きく抉り壁に突き立った。
『―――――……… 』
大穴という表現すら生温く、スパーダはその赤黒い身体の左肩から横隔膜の辺りまでをザックリと失った。
限界を超えて消え逝く彼は最後に何事かを呟き、それを聞けたダンテは小さく頷く。
そのまま彼は一度頷き、ゆっくりと悪魔化を解いた。
後には彼の寄り代となった人形の身体―――――つまりダンテが覚えている人間の父の姿がそこに在った。
「さらばだ、ダンテ。我が息子よ」
声を奪われ、酷く聞き取りづらい発音だったが、彼は確かにそう言った。
許容量を遥かに超える魔力と規格を大きく超える運動を強要されたその身体の肌はドス黒く変色し、毛穴からは血が噴き出している。
ひと目で既にどうしようもなく壊れていると解るその身体が未だに機能を停止していないのは、スパーダという最上級の悪魔が宿っているためだ。
彼はただ一言、息子への思いを言葉にするために身体が崩れる痛みに耐えて実体を残したのだった。
「もう行け。あとは……頼んだ」
彼の膝がガクンと揺れる。
しかしそれは彼の膝が抜けたのではなく、部屋の床に巨大な亀裂が奔った為だった。
この地下倉庫も、ユニテリウスの度重なる実験や土を掘り返す悪魔の出現。
さらには空間的な歪みまで加わり、とっくに限界を迎えていたのだった。
「ダンテ、行くぞ!
生き埋めになりたいか!!」
「―――――ッ!!
じゃあな親父。あの世でも達者でな。母さんと兄貴にもよろしく言っといてくれ。
俺はすこぶる元気だって!」
そう言い残してアルトリアに続いてダンテも走り出した。
崩落はそこまで迫っている。
元来た扉を蹴破り、落下してくる天井の破片を剣で払い、銃弾で打ち抜く。
数時間前に貫いた石の隠し扉を踏み越え、階段を駆け上がる。
まだ安心は出来ない。
地盤が沈下したことで基礎が歪み、つられる様に崩壊していく古い教会の狭い通路を、アルトリアとダンテは一目散に駆け抜けた。
頭上から降ってくるステンドグラスの残骸は、とても払い切れる量ではない。
「飛び込め!!」
そう言ったのはどっちだったのか? ともかく彼女らは本当に間一髪のところで、生き埋めの危機を脱した。
魔界の主がここまで計算していたとは思い難いが、それならば彼女たちはそんな魔帝の苦し紛れの策すらも突破したことになるのだろう。
「ぜー、ぜー、ぜー、
生きてるかお嬢ちゃん」
「はぁ、はぁ、何とか……
鎧を着て全力疾走などやるものでは無いな」
「いやぁどうだかな。コッチは馬鹿でかい剣を背負っている上に一張羅が完全にダメになっちまった。
すっかりガラスまみれだが――――ともかくお互い無事で良かった」
「そうだな。ああ、もう夜明けか、長い一夜だった」
二人して空を見上げると、教会の倒壊でポッカリと開いた空に太陽が昇っていく。
たったひと夜の邂逅。しかしスパーダという英雄は、確かな足跡をダンテの中に残した。
彼の英雄譚は、恐らく彼の息子に引き継がれるのだろう。
「ありがとな、お嬢ちゃん」
「私がやりたくてやった事だ。貸し1ということで勘弁してやる。
――――と、しまった。
私の愛馬が立ちごけしている。これは酷いな、後で修理に出さなければ」
路面に座り込み、リベリオンと足を投げ出しで朝日を眺めるダンテと、それよりも停めておいたV-maxが気になるアルトリア。
教会とその地下の崩壊によって道路のあちこちが隆起し、V-maxもその煽りを受けたようだ。
教会の破片の直撃を受けなかっただけ運が良かったと言えるかもしれないが。
「よっ、と。
まあともかくだ。これで魔界の脅威は去った、とは、行かないようだな。ダンテ」
「ああ、ヤツラのしつこさは折り紙付きだよ」
アルトリアはV-maxを起こし、スタンドを立てると再び剣を取った。
一方のダンテも大剣リベリオンを手に立ち上がり、背中のホルスターから銃を抜く。
その直後、スパーダの固有結界から逃れた悪魔や、結界消滅後から門の閉鎖までの僅かな時間でこちらに忍び込んだ悪魔たちが周囲を取り囲んだ。
「やれやれ、お互い忙しく成りそうだな、ダンテ」
剣を下段に構え、アルトリアが愉悦に唇を歪ませる。
「おいおいお嬢ちゃん。
アンタの職業はヴァンパイア・ハンターじゃなかったのか? コイツは俺の仕事だぜ」
一体、また一体と数を増していく悪魔の群れを見ながら、ダンテは銃口を遊ばせる。
「なら、今日からは悪魔も狩る事にしようか。
貴様だけに美味しいところは持っていかせはしない」
「ハッ、上等!」
朝日が照らす銃声が路地裏に響き渡った。
舞台の公演は、まだまだ終わらない。
「楽しくて狂っちまいそうだ!!」
悪魔も哭き出す男が居る。
便利屋『Devil May Cry』の経営者。デビルハンター、ダンテ。
後の世に英雄としてその名を刻み込む彼と、黒き騎士王。
そして2000年の永きに渡り人界を護り続けた最高の魔剣士の、一時の邂逅の物語。
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