【黒×DMC】Episode-08:Devil's Nemesis of
アルトリアはあえて鎧を纏わず、黒いスカートを躍らせながら戦い続けた。
自己の守りを捨て、簡単に壊れる目の前の悪魔どもと同じ立場に身を晒す。
何故そんな無意味を行っているのか自分でも分からない。
だが禍々しき悪魔の咆哮を肌で感じ、飛び散る死の香りは、彼女の鼻腔を痺れさせた。
この程度の雑魚相手でも感じる、己の危機。
闘争本能が加速する。
重りを切り落とした故に強化された瞬発力と攻撃力は、彼女自身のイメージをも超えた。
受肉より二年。
感情を爆発させたかの英雄王との一戦以来、ただ淡々と死徒を狩り続けた彼女は、今確かに嗤っていた。
To Cross Over “Devil May Cry”
Episode-08
Devil's Nemesis of
「オォォ、オグ、グ、ゥゥ……」
紅の衣を纏ったマリオネットの口から放たれるはずのおぞましい声が、口内に侵入した黒の刃に途中で断ち切られる。
刃の主はそのまま勢いを緩めることなくマリオネットの頭部を刺し貫いた。
「これで最後か」
もはや数えるのも面倒な数のマリオネットを屠り、アルトリアは息をついた。
殺戮の恍惚にその美貌を歪めたまま、彼女は悪魔人形の口に突き込んだ剣先を引き抜いて身体を反転させる。
僅かな間を置いて、ガシャリ、と乾いた音が路地裏に反響した。
醜悪な人形から取り憑いた低級悪魔が抜け、ただの悪趣味な人形に戻ったそれらは正しく糸の切れたマリオネットのように地面に落ちる。
「ハッ、ハァッ!」1
一方のダンテは未だ宴の只中にあった。
よく彼の足下を見れば、そこに転がる残骸の量はアルトリアのものよりも多い。
意外なことに、悪魔どもはアルトリアよりもダンテのほうにより多く襲いかかったらしい。
それは華奢な女剣士よりも、屈強な剣闘士に魅力を感じたが故か。それとも、
「それとも、奴自身に狙われる理由でもあるのか」
アルトリアの目の前で、ダンテは身の丈ほどもある大剣『リベリオン』を振るい、悪魔人形を怒涛のごとく斬り伏せる。
その戦いぶりは実に、いや、異常なくらい戦い慣れているように彼女は感じた。
悪魔ゆえの動きの機微。
奴らが時折見せる“人間には絶対に不可能な動き”にもダンテはまったく動じることは無い。
むしろそれを当然とでも言わんばかりに対応し、反撃を叩き込んでいく。
いくらアルトリアでも初見の、それも異種族を相手にこのような戦い方は出来ないだろう。
「悪魔狩人の肩書きに、偽りなしか」
そう呟き、彼女は足先に込めた力を緩めた。
幾重にも襲い掛かる悪魔の攻撃にさらされ、幾度と無く危機に陥るクセに掠り傷すら負わない。
真紅のコートにすら掠らせないダンテに、加勢など不要なのだ。
「ィイーー、ヤアァーーッッ!!」
覇気を滾らせた声と共に、ダンテの剣が目の前の紫のマリオネットの胴体のド真ん中を貫いた。
剣を思い切り後ろへ振りかぶり、右足を前に出す勢いで捻っていた腰を開放して身体ごと相手を突き貫く片手突き。
彼の振るうそれはアルトリアのような術理など無視したケンカ殺法。
渾身の力で叩き込む、硬い岩盤を貫くスティンガーミサイルの如き一撃だった。
「ガェッ――――」
さらに、連撃は続く。
リベリオンで串刺しにしたマリオネットをいったん放置し、彼は斜め前に転進。
そこにいた紫の悪魔人形に懇親の右ストレートを叩き込むと同時に、自慢の鹿皮のブーツが弧を描く。
振りぬかれた右ハイキックは先の打撃で一瞬硬直した人形の首を的確にとらえ、その頚部に致命的な皹を刻んだ。
「喰らいな」
その刹那後、もはや銃声を超えて衝撃音と表現するのが的確であるかのような破裂音が路地を蹂躙する。
彼の右手に握られているもの。
それはコートの裏地に設けられたホルスターに差し込まれていた熊撃ち用のショットガンだった。
魔力を存分に吸い、広範囲に拡散するはずの散弾を至近距離からまともに喰らった人形の顔面は、その頭部ごと消失する。
さらに一秒と間をおかず、戦闘は次の局面へと移行。
ダンテはマリオネットを捕らえたままのリベリオンの柄を両手で握り、懇親の力で地面を踏みしめ、
「ハッハァーーッ!!」
一気に、フルスイングした。
剣に捉え垂れたままのマリオネットの胴を刃は進行し、ベキリと耳障りな音をたてて切断されていく。
それ別のマリオネットに叩きつけ、諸共に粉砕。
さらに刃が開放された瞬間、彼は垂直に跳んだ。
「ラスト――――」
アルトリアがぶつかり合うマリオネットの影に隠れて彼を見失った一瞬で、空へと舞い上がる。
例の紅い魔方陣を用いた二段跳躍。
数メートル上空で剣を大上段に構えるダンテの放物線の先に居るのは、この路地裏に最後まで生き残っていた二体。
何をするか見え見えの斬撃に、当然の如くマリオネットは両手に持つ半月剣を交差させてガードの姿勢をとるが、
「――――ッ、ヤァッ!!」
無意味だった。
リベリオンとダンテの体重。そして重力によって十分に加速された剣撃が低級悪魔の、それも錆びた鉄の刃程度で止められるはずも無い。
何の抵抗も無いかのように、リベリオンの刃は半月剣を通過し、マリオネットの鎖骨にあたる部分を強襲。
袈裟に背骨を断ち斬り左脇へと剣を振り抜くと、切っ先が地面に触れるギリギリの位置で切り返すという芸術的な剣捌きをダンテは見せた。
その動きに残る一体のマリオネットは気負られ、アルトリアは残る一体の末路を幻視して唇を吊り上げる。
「カァァーーー!!」
しかし魔界の先兵たる低級悪魔に、撤退など赦されない。
彼らに与えられた勅命は、人間界への再進行における生涯の排除。出来ぬなら、相打ちでも敵対するものを殺傷せよ。
その一念に急き立てられ、マリオネットは右手に持つ銃身の錆びたショットガンをダンテに向ける。
「遅いぜ」
だがその銃身をダンテは返す刀で払いのけると柄から右手を離す。
そしれ流れるような動きで、背中のホルスターから黒い銃『アイボリー』を引き抜いた。
「覚えときな。
銃ってのはこうやって撃つもんだ」
一足一刀の間合いから、ダンテは文字通り一足でマリオネットの懐に飛び込んでいた。
うろたえる暇すら与えない。
彼はまるで映画のワンシーンのようにマリオネットの眉間に銃口を擦り付けた。
直後、バチリ、と彼の魔力の具現である紅雷が銃身に奔る。
「 Jackpot ! 」
そして、これは映画ではない。言い訳無用とダンテは一切のタイムラグなく引き金を引く。
先程の爆音とはまた違う、鋭い銃声。
50口径の銃口から放たれた魔力を纏う弾丸はマリオネットの顔面を貫き、その魂を抉られる。
ダンテが銃口から燻る煙をふっ、と吹く向こうで、正しく糸の切れた人形が膝から崩れ落ちた。
「Jackpot(大当たり)か、品のない決め台詞だ」
クルリ、と手元でエボニーを一回転させるダンテの背後にアルトリアは歩み寄った。
殆ど空になったマガジンが交換され、再びグリップの中に納まる軽い音が耳に心地よい。
「そうかい? 気に入ってるんだがな」
「ああ、そうだな。悪くない。
確かに貴様にはよく似合っている」
彼女の言葉にダンテが振り返った。その瞬間、再び殺気が交錯する。
アルトリアの剣先はダンテの心臓に、ダンテの二つの銃口はアルトリアの眉間にピタリとポイントしたまま動かない。
「では、始めの質問に戻ろうか。貴様は何者だ?
此処までの事をやって、よもやただの人間だとは言うまい?」
「……確かに俺は人間じゃねぇ。
かわりに俺も聞かせろ、アンタは“悪魔”か?」
「否、だ。私は受肉した英霊であり、断じて悪魔などではない」
ひりつくような空気。一切の偽りなど差し挟めぬ雰囲気。
だがそれでもこの強談な両雄ならば、必要と在れば言葉遊びに興じることすら厭わないだろう。
異常の中でこそ輝く二人にとって、この緊張感はその程度のものなのだ。
「英霊? なんだそりゃ」
「過去未来を問わず、死した英雄が至るモノ。
平たく言えば英雄の幽霊みたいなものだ。最も、私のように受肉した者は稀だが」
「へぇ……良く解らねぇけど、まあいいや。
とりあえず悪魔じゃねえなら、俺が銃口を向ける意味はねぇな」
そう言ってダンテはエボニーとアイボリーを下げる。
無論だが、戦意はそのままだ。
もしアルトリアがこれを好機とみて斬りかかれば、刹那の間に二つの銃から放たれた弾丸は彼女を襲うだろう。
銃を下げるという行為は、単に敵意が無い事を示すのみ。
彼ほどになれば、そこに戦力の低下など大して見込めないのだ。
「なら今度は私の番だな。
問おう、貴様こそ“悪魔”か?」
「――――鋭いな、YESだ。半分だけだがな」
アルトリアが質問した瞬間、ダンテの表情が一瞬強張る。
彼の、青みを帯びた銀色の瞳が僅かに揺れた。
「半分?」
「ハーフだ。悪魔と人間のな。驚いたかい」
「………戯け」
だが次いで紡がれた応えに、アルトリアはため息を漏らす。
心底呆れた顔をして、彼女もまた剣を下げた。
「嘘でももう少しマシな嘘をつけ。
仮性悪魔も真性悪魔も、その成り立ちからしてヒトとの間に子を設けることなどまず不可能だ。
こいつらならばあるいはとも思うが、子が成せるほど上位のものは、二千年前を境に現れてはいない」
「だからカセイだのシンセイだの、そんな事は知らなねぇ――――」
「黙れ、もういい。
肝心なのは貴様が敵かどうかという事だが、どうやら貴様は私の敵ではないのだろう?
少なくとも、先程のような悪魔を相手にする場合は」
アルトリアはもう目の前の男からは何も得られないと、早々に会話を打ち切った。
この男は自分と同じ裏の世界に身を置く者だが、どうやら知識の面では決定的に差があるらしい。
「まぁ確かにそうだな。俺の本業は『悪魔狩人(デビルハンター)』。
アイツらの天敵だ。
それにしてもお嬢ちゃん、ヒトの話は――――」
「――――……」
「OK、解ったからその眼は止めてくれ。正直怖すぎる」
殺意の他にもイロイロと篭ってそうな視線を浴びせられ、流石のダンテも口を噤んだ。
なまじアルトリアの顔が整っているだけに、怖さ倍増なのだ。
男性である以上、この絶対零度をさらに下回るような彼女の視線にあながう術はない。
「で、そういうアンタは何でここに居るんだ。
悪いが観光なら他所でやってくれ、仕事の邪魔だ」
「そっちこそ、私の邪魔はするな。私は『吸血鬼狩人(ヴァンパイアハンター)』
死徒の魂から得る魔力が私の糧だ。
ただ殺すだけの貴様よりもよほど『狩人』の名に相応しい」
「魂? しかも死徒? オイ、死徒ってのは確か吸血鬼の事だよな。
一体どういう事だ? 悪魔と吸血鬼は別物だぜ。
悪魔はそいつらみたいに、他人の血を吸って仲間を増やしたりはしないぞ」
「別に、死徒は何も血を吸われた人間だけが成るのではない。
魔術を突き詰めた末に人間をやめて死徒と成る者も居る。
今回の元凶、“悪魔召喚”を成功させたのもそんな外道だ」
ダンテも職業柄、“死徒”や“魔術師”の存在もある程度把握している。
だがそれは自分とは全く関係のないものであり、今回の騒動も偶発的に魔界と繋がってしまっただけだと思っていたのだ。
しかし彼の目の前にいるアルトリアはそれを否定した。
この事件は、あるひとりの魔術師によって引き起こされたものだと彼に告げたのだ。
「……Fuck! つくづく腐ってやがるな、魔術師ってやつは。
アーカムみたいな馬鹿野郎が他にもいやがったのか」
その事実に、ダンテは驚き、苦虫を噛み潰したような表情になる。
そして数秒の間をおいて、低い、唸るような声がダンテの口から漏れた。
赤い、ひと目見れば眼球の奥に染みこむほどに濃密な赤を纏う感情。憤怒が、ダンテを呑み込んでいる。
「アーカム? 誰だ、それは」
「気にするな。前に、悪魔の力に手を出して死んだ馬鹿の名前だよ」
怒気を隠そうともしないダンテを見て、アルトリアは何も言わず彼に背を向けた。
今更ながら、彼女は目の前の男とは相容れないと確認したのだ。
突きつけられた事実に反応してダンテの中に渦巻いている怒りは、即ち『義憤』の感情だ。
対して自分は、同じ事象を目にしてもただ『我欲』の為に動いている。別に怒りなど伴わない。
こと戦闘における考え方において、自分とこの男は根っこの部分から決定的に乖離してしまっている。
そう感じた彼女は、ダンテと協力するという選択を破棄した。
「最後に言っておいてやる。
ダンテ、本当におぞましいのは、むしろ人間のほうだぞ」
「ああ、知ってるさ。十分にな」
「そうか。ではなダンテ。
貴様が何をしようと勝手だが、私の邪魔はするな」
そう言い残すと、彼女は自らのV-maxに跨り路地の奥へと走り去った。
「そっちこそ、悪魔に魅入られんじゃないぜ」
ダンテの独り言は、空しく宙に消えた。
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