【黒×DMC】Episode-07:I well begin a Crazy Party!!!
カシャリ―――カシャリ――――
若い男と年端も行かぬ少女に、静かに迫り来る足音。
その主は、死演の道化人形だった。
それらは、何処の誰の匠意なのか。
こうなることを想定して作り上げたのならば、その者はいったいどれほどの憤懣を募らせていたのか。
極彩色の、しかしボロボロの装束を纏い、二股の帽子を頭に被って絶望を貼り付けた仮面でケタケタと哂う。
異界から伸ばされた悪意という繰り糸に操られる彼らの姿は正に、巨大で醜悪なマリオネットだった。
彼らの手には錆びだらけの半月剣やナイフ。半ばで折れた長剣。果ては熊撃ち用のショットガンまで。
ありとあらゆる凶器を、ヒトだけに許されたはずの武器を手にヒトを狩る。
彼らからはまるで生気を感じない。当然だ、彼らは“生きて”はいないのだから。
彼らはただ自身の衝動に突き動かされて“動いて”いるだけなのだ。
意志もなく生気もない彼らの眼では、ただ赤い魔光だけが煌々と輝く。
低級の悪魔は思考など持たず、ただ己の殺傷本能と主命だけに従い狂いながら生命を狩る亡者である。
「カオオォォオオォォォォーーーン……」
悪魔が哭く。地の底より這い出すような、おぞましい声で。
実を言えば、彼らは聖堂教会が認定する悪魔とは違う。
教会の言う『悪魔』とは人に取り憑き、結果はともかく人々の苦痛を理解し、取り除こうとする存在。
そうしながらゆっくりと宿主の中で育ち、終には宿主の殻を食い破ると精神と肉体をヒトとは違うモノに変質させる。
そんな断じて存在ではない。
彼らはそんなまどろっこしい行為を取らない。
まるで蜃気楼の様に表れ、肉を引き裂き骨を砕く。
血に酔い、破壊に狂う。悲鳴に絶頂し、絶望を喰らう。
それが彼らだ。
その様は民間伝承にあるような悪魔とも違う。
苦悩する者に甘言を吐き、魂を介した契約を持ちかける。
信念や忠誠に寄らず、契約にのみに従う。
超常の力を惜しげもなく振るい、仮初の主人に尽くす。
己の美学の追求者でもない。
ではなぜ彼らは悪魔と呼ばれたのか。
簡単だ、それは彼らを目にした人々が、そう感じたから。
まるで身体を形作る細胞のひとつひとつ。
魂に刻まれた『ヒト』という存在そのものが、言い表しようのない恐怖を感じたから。
“ 人 は 悪 魔 を 恐 れ る ”
他の条件など知ったことではない。ただ、恐ろしい。
その一点のみでヒトは彼らを悪魔と呼んだ。
誰が何と言おうとも、その多種多様な姿形がどう変わろうとも、ヒトは気付く。ヒトは恐怖する。
彼らに。どことも知れぬ場所から突然に来訪する襲撃者に。人類の天敵とも言える者達に。
「カァオオォォオォオオォォオォォォーーーン……」
その悪魔が、哭いていた。
絶望を冠する者たちが、哭いて、いた。
「イィィーーーーヤァッッ!!」
黒と銀の大型拳銃と、髑髏を貼り付けたような柄を持つ剣に。
迸る、灼熱を思わせる真っ赤な魔力に。
「セッ、アァッ」
黒い殲滅衝動と、ヒトの世の欲望と絶望を束ねた剣に。
吹き荒ぶ黒竜の瘴気が如き魔力に、『絶対的殺戮者』という優位をいとも容易くに崩されて。
ド派手なコートを翻す赤い悪魔狩人と、装飾過多なワンピースの裾を踊らせる黒き騎士王の手で、その存在を奈落に還されながら。
絶望を与えるはずの悪魔が、絶望に哭き叫んでいた。
To Cross Over “Devil May Cry”
Episode-04
I well begin a Crazy Party!!!
「ヤアァッ!!」
漲る覇気とともにダンテは一足で間合いを詰め、マリオネットの脳天を袈裟に叩き割る。
ザックリと割れたそこから気味の悪いドロリとしたモノが噴出し、頚木を失った緑のマリオネットの身体が分解し崩れ落ちる。
彼の身体はそれよりも早く次の動きに移り、反転して背中を襲う紫のマリオネットの胴を打ち据える。
胴を一文字に凹まされた人形が地面と水平に飛ぶと、さらに別の悪魔人形と衝突してそれを巻き添えにビルの壁に突き刺さった。
ダンテはそれに視線を送ることも無く次の獲物に肉薄すると、股下からアッパーカットの様に掬い上げる。
2メートルを超える長身が易々と宙を舞った。
いくら人形とはいえ、その重量はゆうに大人一人分はあるにもかかわらず、そのマリオネットは一気に5メートル近く打ち上げられ、最高到達点を越えて落下する。
真下で両手に黒と銀の銃を構えたダンテに、その四肢を曝す格好で。
「くたばれ!」
スラングとともに放たれたマズルフラッシュが路地を焼いた。
苛烈な打撃とともに宙へと叩き上げられたマリオネットに、そこから吐き出される弾丸を躱す方法などあるはずがない。
銃という発射装置の常識を覆すような速射で弾丸が吐き出され、彼の頭上で動きのとれない悪魔に殺到する。
埒外の連射。それを被弾した悪魔人形は、重力を無視するように空間に縫い止められた。
「ハッハー!」
止まらない弾丸の逆雨が、悪魔人形の身体をコンマ一秒ごとに削っていく。
ものの数秒で瓦礫と化した人形。
その破片が降り注ぐ中心で、ダンテは口笛を吹きながら、銃口の硝煙をふっと吹き散らす。
「~~♪ Too Easy…」
口元には不敵な笑みを浮かべ、一瞬の惨劇に怯む悪魔どもを一瞥する。
赤の狂宴が始まった。
/ / / / /
「無駄が多すぎる、が……」
背中越しに見たダンテの技量に、思わずため息が漏れる。
およそ剣の常道を無視した、ともすれば力一杯振り回すだけに見える剣捌き。豪雨の様にマガジンの弾丸を撒き散らす銃技。
だがその実どれも的確に、相手の命を破壊するツボをおさえている。
荒いが、見事な技の数々。
まるで数多の血を以って練り上げたかの如く凄惨ものなのに、それは同時に情熱的なダンスのようでもあった。
「私とは大違いか。
だが―――ああそうだ、これは宴だったな」
ダンテの実に生き生きした戦いぶりを見て、思わず自分を卑下しそうになったアルトリアはふと思い至る。
『Let's lock, I will begin a Crazy Party !!!(さぁて、イカれたパーティの始まりだ。派手にいくぜ!!!)』
それは先程のダンテの言葉。あれは宴の開幕を告げる声だったのだろう。
ならばこの場で鎧を纏うほど、無粋な真似はない。
そう考えて彼女は、身に纏う鎧を消し去った。
後に残るのは、黒い布地に黒い糸で縫製された装飾過多なゴシックロリータ調のワンピース。
とたんに肌を風が撫で、ぞくりとした不安に襲われる。
「ク―――」
口から、何故か笑みが漏れた。
戦勝の祝いに催された宴。貴族の舞踏会には遠く及ばないが、それでも粗野ながら誰もが歌い踊った。
思えば、わたしはそんなものとは無縁だったのだ。
男を装い、完璧な王を装ったわたしはその輪に加わることは終ぞ無かった。
だが、あるいは、今ならば。
「ちっ!」
己の愚にも着かぬ思考に舌打ちする。何を馬鹿な。意識が混在している。私は“わたし”とは違うのだ。
私は黒き竜。くだらない周囲の雑音や些事に、惑わされる存在ではない。
私は私のまま、戦場を生きればいい。
愉悦とは殺戮そのもの。戦の後の享楽など、私には無縁である。
見ろ、こんな低俗な思考をするためにくれてやった数秒間で、流石に周りの雑魚どもに状況の判断を赦してしまったではないか。
「カカカカカ――――――」
アルトリアを取り囲み、凶器を一斉に振り上げるマリオネットの群れ。
同時に彼女は闘争の最中に、貴重な時間を思考に費やした己を罵り、魔力を爆発させる。
けれど彼女は何故か、鎧を纏うことはしなかった。
「遅い」
無形の位から、一瞬早く動いた青い装束のマリオネットの首を断ち切る。
さらにそこから身体を返し、足首を基点に3/4回転して正面に居た橙のマリオネットの胸を斬り裂く。
「喜べ、しばし戯れてやる」
「カォォオオォォオオォォォーーー」
アルトリアは己が胸中に蟠る感情を、周囲を囲むマリオネットに叩きつける。
横薙ぎ、逆袈裟、切り上げ。
唐竹、前蹴り、逆胴。
流れるような連撃が、悪魔人形たちに襲い掛かった。蹴りを絡めた流水の六連撃が、周囲に居た五匹の悪魔を一掃する。
「ハ―――――」
その血飛沫の中心で嗤うアルトリアは剣を足下に突き刺し、髪を括っているリボンを堅く括り直した。
服の僅かな乱れを直し、眼にかかる前髪を首を振って払うと、根元が絞られた髪が雪のようなうなじに揺れた。
「脆い、脆すぎる。それでも悪魔か?」
真紅のルージュが引かれた唇から、小さな笑いが漏れた。
白い肌と、紅い唇。その仕草からは彼女の容姿とは不釣合いな、匂い経つような色香が漂う。
痺れるような甘い香りと発散される黒い殺意に、悪魔ですら怯えて動けない。
彼女はその中心で、ゆっくりと間を持たせて瞼を開く。
「さぁ――――」
戦勝の宴? 何を馬鹿な。
私にはこの様な、怨嗟に塗れた地獄こそが相応しい。
豪華なドレスや、煌くシャンデリアなど必要ない。怨嗟と呪いと、一振りの剣さえあればいい。
此処は、死者が踊る舞踏会なのだ。
「―――踊ろうか、皆の者」
そう言い残すと、弾ける様にアルトリアは跳んだ。
足下に魔力を迸らせ、悪魔の群れの懐に飛び込んだ少女の奥底に眠る暴竜が眼を覚ます。
「カァァァオオオオァオアァーー……」
そして始まる、狂った協奏曲。
黒い令嬢は輝く銀の刃と迸る魔力を以って優美な戯曲を舞い、赤いロックスターは鈍く光る刃と無数の弾丸を以って灼熱のステップを刻む。
足下に広がる瓦礫の絨毯。会場に響く断末魔のオーケストラ。
会場に用意された料理はどれも下賎で、手をつけようとも思わない悪魔の肉だが、それもまたいいだろう。
全てを忘れ絶頂するのが狂宴の作法なのだから。
殺戮のダンスに巻き込まれた仲間を偲ぶように、自らの不運を呪うように、降りかかる死を拒絶するように、宴の生贄となった悪魔は哭き続けた。
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