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【黒×DMC】Episode-06:Let’s Lock,

 空気が固形化した。
 そんな馬鹿げた表現が真実味を帯びる。
 対峙するふたりの間で殺気が衝突し、爆ぜ、周囲で見守るモノにまで飛び火した緊張感が空間一杯に広がり、胸を圧迫する。
 背中をぞわりとした痺れが行く筋も奔り抜け、武器を構える腕の皮膚がひりつく。

 片や、黒き騎士王として受肉した最強のサーヴァント、アルトリア。
 片や、悪魔も泣き出すと評される最強のデビルハンター、ダンテ。

 一般人が出くわせば、呼吸器に痙攣を起しそうな濃密な殺気の中で、二人は共に口角をつり上げた。

「私の本気の気当りに怖じた様子もないとは、やはり、か?」

「何がだ? クレイジーガール。
 そういうアンタこそ、違う、だろ? アンタ、“人間”じゃねぇな」

 それはダンテが口にした言葉だった。だが同時に、アルトリアが思考している事でもあった。
 そしてそれは、両者ともに正しいのだ。
 彼らは共に、人間というカテゴリから逸脱した者同士なのだから。






   To Cross Over “Devil May Cry”
        Episode-06
        Let’s Lock,






 交錯する火花が、さらに数を増す。
 空気は遂に不可視の刃となり、周囲のモノの精神を裂くほどに成長した。
 その中心にあるのは、刀身に禍々しい円環文様を刻んだ黒い魔剣の切先と、遊底の表面に『 Ebony & Ivory 』と刻まれた、鈍く輝く銀色の大型拳銃の銃口。
 間合いを考えれば、剣のそれは銃に及ばないが、単純な威力ならば剣のそれは銃を大きく上回る。
 特にダンテは、アルトリアの持つ剣が間合いの不利を差し引いてなお、己の構える銃と同等かそれ以上の脅威であると理解していた。
 この少女は、刹那でこの間合いを駆け抜けるとも。
 彼にとっては、遠距離から狙撃されるよりも剣でバッサリとやられる方がよほど堪える。

 一方、剣を得意の下段に構えるアルトリアは目の前の男が持つ銀色の拳銃の大きさに息を呑んだ。
 大きい。それはどう見ても人間が片手で扱う大きさを超えている。
 この時代に来て二年ほどになるが、彼女の目にしたハンドガンの中でもアレの大きさは群を抜いている。
 ならばそれから吐き出される弾丸の威力も、それまで経験したものとは一線を画すだろうことを察した。

 だから動かない。
 二人は全身を廻る血液をこれでもかと言うくらい加速させながら、
 衣の下で鍛え上げた肉体を静かに躍動させながら、互いの急所にピタリと己の武器をポイントしたまま、微動だにしない。

「………」
「………」

 たっぷり、一分はたっただろうか。
 いやそれはただの勘違いで、本当はほんの数秒も経っていないのかもしれない。
 そんな時、ふと、アルトリアは腕を下げ、ピンと張った身体の力を抜いた。

「オイオイ、いいのかお嬢ちゃん?
 アンタが剣を下げたからって、俺が撃たないって保障はないんだぜ?」

 ごく平坦な声で、ダンテは彼女の行為の意味を問うた。
 彼の銃口、は尚もアルトリアの眉間をポイントしたままである。

「その時は、貴様の器の小ささを盛大に哂ってやろう。
 さぁ、よく狙え。一撃で仕留めぬと、後が怖いぞ?」

 剣を下したアルトリアだが、その殺気には僅かの翳りも見られない。
 しかもその殺気からは、今までの相手を皮肉る熱さえ消え去り、ひたすらに冷たく変貌していく。
 まるで、一振りの剣のように。

「ハッ、言ってくれるよな!」

 反対にダンテの魔力は酸素を供給された炎のように、ゴウ、とその熱を高めた。
 その魔力が臨界に達し、飢えた魔獣を幻視した瞬間、その魔力が銃弾に飛び火する。


 銃声が、路地裏に響き渡った。


 落ちた撃鉄に応え、銃身の内側を鉛弾が擦り上げ銃口から飛び出す。
 ふんだんに魔力を吸い、大破壊を引き起こす魔弾が空間を抉りながら、狙い通りの相手に命中した。

「アンタもそう思うだろ、クソヤロウ。
 せっかく小さなレディとのデートなのに台無しじゃねぇか、どうしてくれる?」

 ダンテが、アルトリアの“後ろにいるモノ”に向かって吐き捨てた。
 刹那早く標準を変更された銀色の銃『エボニー』の銃口から放出された銃弾は、アルトリアを掠めてその背後に出現した人形の頭を貫通したのだ。

「ヘタクソ。髪に掠ったぞ」

 冷たい声の直後、突然アルトリアの足下が爆ぜた。
 何のモーションも無しに、唐突に踏み切られた両脚によって足下のコンクリートを微塵に破砕される。
 その数瞬後には下段に構えた剣が翻り、上段からダンテの背後に迫った人形を一刀両断に切り伏せた。

 撃たれて、斬られて。
 二体の人形の、いや“悪魔”の断末魔が月夜の路地に反響する。
 その耳を劈く悲鳴に呼応するように一匹、また一匹と同じ悪魔が出現した。
 彼ら―――便宜上そう呼ぼう―――のどれもが錆びだらけの凶器を構え、2メートル以上の身体を持つ人形。
 サーカスで操られるような極彩色のマリオネットに低級の悪魔が憑依した、魔界から伸びる意図に手繰られる醜悪な悪魔人形どもが此処に現界した。

「おい貴様、このような異形を相手にした経験は?」

「狂っちまうほど。
 アンタこそ、俺の後ろに隠れて見学しててもいいんだぜ?」

「断る。確かに、私にこの様な異形との戦闘経験はない。
 だがまるで問題ない。お互い、気遣いは無用だったようだ」

 今、この路地にわずか数秒で出現した人形の群れ。その数、五十余り。
 此処は、左右をビルの壁に阻まれた路地。兵法でいう天牢の地形。
 世界干渉をフルに使い、魔方陣から二人を取り囲む様に出現した悪魔人形たちに抗ずるため、アルトリアはダンテに背中を預けた。

 前後から悪魔に挟撃されたアルトリアとダンテは非常に不利な戦いを強いられるだろう。普通ならば。
 出合ったばかりで、互いに名前しか知らぬ二人に、連携など出切る筈が無いのだから。
 よって彼らは、お互いの背中で戦場を分断。
 互いを守るために眼前の敵を殲滅するという、実にシンプルな作戦に出た。

「喜べ、異形ども。一時――――」

「ところでお嬢ちゃん」

 さて行くか、と殺意を標的に向けたアルトリアは、その出鼻をまるで緊張感の無いダンテの声に挫かれた。
 見ると彼は、銃をホルスターに戻して鋭利な断面を見せる前髪を摘んでいる。

「アンタの剣で俺の自慢の髪が、十本以上飛んだみたいだが? これはどーゆー事だ?」

 確かに彼の摘んでいる銀髪はザックリと切られている。
 銃弾に曝されたアルトリアの髪がほんの少し焦げただけだと考えると、明らかに被害が大きい。
 だがアルトリアはふぅ、と息をつくと、「そんなことも解らないのか?」とでも言うような眼で、ダンテのほうに振り返った。

「女の髪は、男のものとは価値が違うのだ」

「~~ッ! あぁ、そうかい!!」

 彼にとっては正に予想の斜め上を行く回答だった。あまりの答えに、反論すら忘れたくらいだ。
 ダンテはその苛立ちを、無視するなとばかりに襲ってきた先頭の悪魔の叩きつける。
 目の覚めるようなクイックモーションで構えられた銀と黒の大型拳銃から、大量の弾丸がこれでもかと放出された。

 それは、左右合計で毎秒数十発という埒外の高速連射。
 所有者の要求する難題に、大型拳銃の内部機構は的確に答え、矢継ぎ早に弾丸をカラムからチェンバーへと送り込む。
 だが彼が左右の掌でそれぞれ握る銀黒の二丁拳銃、『エボニー&アイボリー』はこれくらいの連射ではビクともしない。
 なぜならこの一対の銃は、ダンテの第二の母と言っても過言ではないガンスミスの手によって創られた、彼のためだけの銃なのだ。
 辛うじて外見から、コルト・ガバメントかその亜種がベースであると解る。
 しかしその全身にガンスミス渾身のカスタムが施されたそれは、結果として全く別物だ。

 大柄な男性であるダンテをして、掌がまわり切らない極太のグリップと、その中に納まる大量の弾丸。
 剛性を重視し、とても常人が片手で扱うのは不可能といえる重量。
 その存在全てが彼の驚異的な超高速連射を支えるためだけにある。

 彼が使い、彼が悪魔を穿てるように。
 彼を護り、彼に降りかかる厄災を撃ち砕けるように。
 そう願って創られた一対の銃が、彼の要求に答え尽くせないはずがない。
 間断なく響く超高速のドラムソロの向こうで、もはやボロ屑同然となった悪魔達が冥府へと還った。

「ハァッ!」

 同時に、その反対側では彼らが現界するための寄り代とした人形が暴風に舞う。
 裂帛の気合いと魔力放出によって巻き起こる暴風の中心で、黒いワンピースの裾が真円を描いた。

「死ね」

 一太刀で、人形の胸と腰が離別する。
 さらに二つに分かれた悪魔の影から自分を狙っていた不届きな悪魔の首を、アルトリアの剣がその腕ごと両断した。
 要である頭を失い崩壊し始める身体を前蹴りで蹴り飛ばすと、それに当った悪魔の鳩尾を目掛けて放たれた渾身の片手突きが、二体分の胴を貫く。
 体重の乗った突きにブーツの底で急制動をかけ、悪魔の死体からそのど真ん中を貫く刃を抜く。
 膨大な魔力を剣に乗せて振るわれるアルトリアの絶技によって、悪魔の胴体たちはたちまちのうちに己が四肢と離別した。

「おいダンテ、こいつらは何だ。悪魔か?」

「ああ。当たりだ、クレレイジーガール。
 こいつらは『マリオネット』だな。最近流行りの、造形物に憑依したタイプの悪魔さ」

 ふと、アルトリアが短い言葉をダンテに投げる。
 その間にも彼の銃撃はやまず、間断の無い剣と弾丸の嵐に飛散する悪魔の破片。
 所詮寄り代である為に多少の破損は屁でもない彼らだが、さすがに身体が粉微塵になっては活動を続ける事は出来ない。

「マリオネットか。ずいぶんと捻りの無い名前だ」

「俺がいま考えた。どうだい、中々イケてると思うだろ?」

 黒いゴシックロリータの少女と、赤いロングコートの男を取り囲む五十体の禍々しいピエロの群れ。
 この死地と呼んでもいいような異常空間でもなお余裕があるのか、ダンテは始めてアルトリアと会った時のような軽い態度を崩さない。
 それに感心しながらも、彼女は悪魔人形をさらに二体ほど切り伏せ、地面に転がったソレの頭を踏み砕く。

「0点。やり直せ。
 で、こやつらを“祓う”にはどうすればいいのだ?」

「オイオイ、0点はないだろ――――ってまぁいいか。
 祓う? そんな小難しいこと解らねぇが、気にしなくていい。コイツらは魔力で身体を保ってるのさ。だから、」

 再び始まる怒涛のドラムソロ。
 瞬く間に、一体の人形が塵に変わる。

「こうしてブッ壊してやればいい。どうだい、シンプルだろ?」

「ああ、解りやすい。実に私好みだ。ではそちら側は任せるぞ」

「任せな。けどこっからはR指定だ。
 助けて欲しかったらいつでも言えよ?」

「貴様こそ、軽口ばかり叩いてないでしくじるな」

「お気遣いありがとよ」

 声と共に、ダンテは不気味で禍々しい悪魔の髑髏を貼り付けたかのような柄をもつ反逆の剣、“リベリオン”を頭上高く掲げる。
 鈍く銀色に輝くそれの真下で、まるで舞台でスポットライトを浴びるメイン・アクターのようにポーズを取るダンテ。
 一瞬、それに悪魔たちが怖じたのをアルトリアは見逃さなかった。


「Let's lock, I will begin a Crazy Party !!!」


 ダンテが紡いだのはとんでもなく粗野な、しかし不思議と心地よい開戦の口上。
 同時に顔を上げ、彼は美しい銀髪の間から覗いた獰猛な魔獣の眼光が悪魔どもを睨みつける。

 悪魔どもを震え上がらせる、天敵の眼光。
 アルトリアは何故かそこに、伝説の魔剣士を。生前に寝物語として訊いた、魔剣士スパーダの威容を幻視した。

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