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【黒×DMC】Episode-05:Meets,Devil Hunter

  悪魔

 それは世界の各所にある闇で時折思い出したように現れる、血と恐怖と厄災を撒き散らす存在。

  絶対的優位の殺戮者

 二千年前、それらを率いた魔帝が人界に侵攻し、雪崩を打ってこの世界に流入し始めた存在。

  異界の軍勢

 魔剣士よって主を倒され、彼と当時の聖堂教会、魔術師協会による奮戦の末、この世界から姿を消したはずの存在。

  もはや失われた怪異

 ほんの数年前に起こった、塔の如く巨大な災器の発動と崩壊に前後して、再びこの世界に顔を見せ始めた存在。

  再臨した亡者

 そして、アルトリアが此度の狩りのターゲットと定める魔術師あがりの死徒、ユニテリウス・ウロボロスが召還に成功したとされる存在。

  降霊魔呪に因る異常生命

 彼らの住まう魔界と、ヒトの住まう人界は大雑把な網のような封印によって隔てられているとされる。
 その為に強大な悪魔はその“封網”に阻まれ、こちら側に出現できない。
 だがその反面、その封網の目を通過できる低級な悪魔は、こちら側に現出することが可能だった。

 しかしその場合、今度はその力が脆弱すぎる故に、世界によって修正を受けた悪魔は悪魔としての実態を保てない。
 それ故に、彼らはこちら側の世界に侵行することが出来なかったといってよい。

 だが何事にも例外は存在する。
 稀に彼らは身体を手に入れることがあるのだ。
 恨みの篭った戦場の砂を媒介に、忌まわしき儀式に捧げられた仮面を媒介に。
 あらゆる負の情念の篭った物体を媒介にし、彼らは確たるカタチを以ってこの世界に現界する。

 そう、今宵も、また――――






   To Cross Over “Devil May Cry”
        Episode-05
     Meets,Devil Hunter






 あの店でアルトリアが食事を済ませてから数時間後。
 満月より降り注ぐ光が通常よりも遥かに多くの建物が密集する区画を照らしあげ、その路地をアルトリアのV-maxが疾走する。
 この国に来て既に二週間。幸いにして資金面での不安は無い。
 前回、前々回に狩った死徒はいずれも魔術師あがりの死徒だったため、それを狩れば必然的にその死徒が集めた財宝や魔術具の数々が手に入ったのだ。
 それらを売り払えば、たとえ法外な仲介量を取られたとしても彼女の預金額の桁を跳ね上げるには充分だった。

 だが、だからといって彼女が焦れていないかといえば全くの否。
 むしろアルトリアは焦れに焦れきっていた。

 彼女の死徒探しが手間取るのはいつものことだ。
 なにせ彼女の商売敵はあの『聖堂教会』。
 世界規模の情報収集能力を持つかの組織によって、殆どの死徒は抹消される。

 アルトリアのようなフリーランスが狩る事が出来るのは、その網から逃れた者達。
 狡猾に己の居場所を隠した者ばかりだ。
 そんな奴らに対しての持ち札は、死徒の居城を引っ掻き回して手に入れた、彼らの横の繋がりを記す情報。
 だがそれを持ってしても、一匹狩ればあとは芋づる式にとはいかないのが、彼らのクレバーなところである。

「だが追い詰めたぞ、ユニテリウス」

 アルトリアが無意識に獲物の名前を口にする。
 ユニテリウス・ウロボロス
 複合企業ウロボロス社の創設者にして、それを中心とした一大企業グループの前総裁。
 現在はその座を息子のアリウスに譲り、先立った妻を弔いながら静かに余生を送っている―――――と、表向きはそうなっている。
 無論、事実ではない。その豪邸に住んでいるのは彼の影武者だ。

 彼が本当の意味で“住んでいる”のは実験用の人体を得やすく、かつ負の情念が体積したどこかのスラム。
 そこに堅牢な工房築き、魔術の研究に没頭する魔術師上がりの死徒なのだ。

 その工房の場所を、アルトリアは僅かな手がかりを元に捜索した。
 手足となる諜報部員たちの徹底した調査で可能性を絞り込んだ彼女は、候補地を東から順に潰しながら移動を続け、この街が三箇所目だった。

『ここに居ないならば、初めから情報を洗い直させる必要があるな』

 可能性の高いと思われた前二箇所が共に空振り。此処でないとなると、恐らく何かを見落としたということになる。
 彼女は獲物が見つからない苛立ちをアクセルにぶつけ、同時に子飼いの諜報員への制裁も思考する。
 アルトリアのストレスをモロに受け、建物の角を曲がる度に、急加速と急減速の反復を強制され続けるV-max。
 だが彼女の愛馬はこの程度で悲鳴を上げるほどやわな造りをしてはいない。
 故に彼女は、この鉄の騎馬に全幅の信頼を置いているのだ。

『とはいえ、流石にキツイな。
 これとは別に、小回りの利く騎馬も用意する必要があるかも知れん』

 そんな事を考えながら、高速で吹き飛んでいく景色の中から僅かな魔力の流れを探る。
 もう何度目か解らない直角コーナーを、巧みなハンドル捌きとアクセルワークで捻じ伏せた、その時、

「チッ!」

 頭の中で思考と探索を行う彼女。その事で、運転に裂く意識が少なくなっていることを自覚していなかった。
 だからちょうどビルの死角になる位置に、馬鹿でかい剣を背負った男が立っているのを視界の端で捉えたが、それへの反応が遅れた。
 もはや避けるという選択肢を選ぶには遅すぎる。
 残るは男を轢くか、男を避けて壁にぶつかるかという二択を前に、彼女は即断した。

「運が、無かったな」

 アルトリアの選択は当然前者。
 手塩に掛けた愛馬と、人間ひとり。悩むまでも無い。
 アルトリアは左手でクラッチを握り込むと無慈悲に右手首を捻り、アクセルレバーを一杯まで廻す。
 同時にギヤをひとつ落とし、更なる加速を加えた。

 別にこの地区では、殺人はそう珍しくは無い。と言うか、そもそもアレはどう見てもまともな人間ではあるまい。
 こんな所をそんな馬鹿げた格好で闊歩する命知らずなトラベラーも――――待て、あの紅いコートはどこかで見た覚えが……

 彼女の思考が脱線した刹那、タン、という地面を蹴る音を響かせて、掛け声とともに男が跳ぶ。
 ひと跳びで2メートル近く跳びあがるという、驚異的な跳躍力。
 だが咄嗟とはいえ、垂直に跳んだのが拙かった。

「ハッ、」

 彼女のV-maxは、自身の抱える1400ccの大型エンジンによる急加速の途上にある。
 衝突の衝撃で体勢が崩れるのを防ぐために、渾身の力で男を撥ね飛ばすという悪辣な措置。垂直跳びで避け切るには少々、高さが足りない。
 たとえ車体の直撃を避けられようと、その速力が生み出す衝撃波が男を絡め取るだろう。
 だがその致命的な状況を、男は常識から逸脱した方法で脱した。

「ハァァッ!!」

 空中で、さらに“もう一度”跳躍したのだ。

「なっ!」

 男の下を何にも触れることなく通過したアルトリアは、予想外の展開に珍しく慌てた。
 彼女の両目が驚きに見開かれ、即座に右手と左足がブレーキを引き絞る。同時に左手がクラッチを掴み、右足がギアを一速まで叩き落す。
 ギアの軋み、前後のディスクブレーキ、エンジンブレーキが赤熱して悲鳴をあげ、タイヤと地面の摩擦音が路地に木霊した。
 けたたましい音とタイヤマークを残しながら、V-maxはその車体を半回転させて急停止する。

「馬鹿な……」

 アルトリアは確かに見た。
 どう考えても助からない高さにいた男の足下に深紅の魔方陣が空中に出現し、彼はそれを足場としてさらにもう一度跳躍したのだ。
 確かに何らかの魔術を用いて、中空を移動するという行為そのものは全く不可能という訳ではない。単なる二段跳躍ならばいくらでも方法はある。問題はタイミングだ。
 角の向こうに居ても、彼女のバイクの音は聞こえていただろう。だがまさかそれが自分に向かってくるとは、予測していまい。
 故に詠唱のヒマなどなく、かといって男が魔術具を使った様子も無い。

 しかも、しかもだ。奴のとった方法がまた問題だ。
 空中に魔力を凝縮させたと思われる足場を出現させてそれを蹴って跳ぶなど常軌を逸している。
 膨大な魔力と、それを一瞬で編み上げる高度な魔術技法か、それに匹敵する強力な“異能”が必要だ。
 そんな事ができる奴は、既に人間というワクから外れている!

「貴様、何者だ!」

 アルトリアの怒号が、タイヤの溶けた嫌なにおいと白煙の舞う路地に響いた。
 考えれば考えるほど、その異常性が浮き彫りになる。
 胃の裏側から競り上がるような違和感に、彼女は叫ばずには居られなかった。

 彼女は知る由もないが、その異能の名は『エアハイク( Air Hike )』という。
 これは男が有する、驚異的な世界干渉能力を以って初めて可能となる異界の技法。
 その使用には詠唱も魔術品も必要なく、ただ魔力を集中させて“跳ぶ”と考えるだけ、足下に一瞬で消える足場をさせる能力である。

 無論、それは魔術師から見れば明らかに異常。
 魔術に関しては素人同然のアルトリアでも、明らかにそうと解るモノだった。
 だから問わずにはいられなかったのだ。
 そんな常軌を逸した異能を有している男は、いったい何者であるか、と。

「オイオイ、またクレイジーな奴だな。
 ヒトを轢きそうになってフルスロットルをかますとは、一体どういう神経してんだ?」

 白煙の向こうから届く、思いのほか軽い口調での非難。だがそれがかえって、相手の機嫌が最高に悪いことを彼女に伝えた。
 油断はするな。そんな言葉がアルトリアの頭蓋の中を反響する。
 同時にぞろり、と刃物の様な殺気が喉元に突きつけられる感覚を感じたが、それに怯む彼女ではない。
 彼女もまた、納得のいく答えが得られねば拷問してでも口を割らせるつもりなのだ。

「ふぅぅ、」

 油断無なく身体をV-maxから降ろし、瞬時に黒い聖剣を喚びだしてその柄を握った。
 ここは既に敵地。ユニテリウスのテリトリーであり、人外魔境である。
 意識を探索から戦闘に切り替え、ラインから搾取した魔力を全身に組まなく流動させる。
 どくん、と心臓がひと啼きしてそれに応え、魔力を滾らせた。

「貴様は、何だ?」

 幾分落ち着いた鼓動を感じながら、静かに問う。
 先程見た異能が、彼女の中で然るべき位置にカチリと収まった。
 彼女はユニテリウス・ウロボロスについての情報の中にあった、ある一文を思い出したのだ。

 曰く『召還魔術の大家であるウロボロス家の当代は道を踏み外し、あろう事か“悪魔”の召還を成功させた』と。
 もしあの男が実はウロボロスの召還した悪魔だとしたら、そんな考えがアルトリアの脳裏に浮かんだ。
 確かにその情報は『上位クラスの召還など在り得ず、低級の使い魔程度が精々』と締めくくられていた。
 だがそれでも、もしこの男が悪魔ならと仮定すると、先程の異能の説明は容易い。
 悪魔の持つ異能は『固有結界』と呼ばれる魔術に代表される高い世界干渉能力なのだから。

「――――――」

 アルトリアの脳が様々な情報を精査、確認している間に、ようやく白煙が収まってくる。徐々に、赤いコートを着た男の輪郭が顕わになってきた。
 彼女の身体から発せられた明確な殺意を感じ取ったのか、初めの一言以降、男からも言葉は投げかけられない。
 ピンとはった空気のなかで、両者は静かに煙の晴れるのを待つ。はたしてそこに現れたのは、彼女にとって少々意外な人物だった。

「お前は、ダンテ?」

「なんだ、昼間のお嬢ちゃんじゃねぇか。
 何してんだ、子供はお家に帰る時間だぜ?」

 白煙が収まった先、そこにいたのは昼間酒場で出会ったダンテだった。
 その事に驚き、場の空気が若干だが弛緩する。

「く、あれだけ言ってもまだ私を子供扱いとは。失礼な男だな、お前は」

「ハッ、何言ってんだ。お嬢ちゃんはどっから見てもお嬢ちゃんだぜ。
 でもまぁ、丁度いいや。アンタに訊きそびれていた事があったんだ。いいかい、クレイジーガール?」

「ほう、奇遇だな。ならば私も改めて問おう」

 ダンテはそう言うと、身の丈を越す大剣を背負っている背中ではなく、もう少し下の腰辺りに手を伸ばす。
 同時に、アルトリアも魔剣の柄を握り直した。

「アンタは――――」

「貴様は――――」

 薄暗い路地裏で、ふたつの金属が翻る。

「「何だ?」」

 言葉と共にアルトリアが刃を翻し、その刀身が怪しく輝く。
 ダンテがコートの腰の位置に据えつけられたホルスターから大柄な銀のハンドガンを抜き放つ。
 二人が、お互いの凶器を相手に向けるのは、全くの同時だった。

「―――――」
「―――――」

 途端に、二人を包む大気が密度を増した。
 アルトリアの全身から吹き上がる魔力と殺気は、常人なら一瞬で意識を刈り取られるほど。
 だがそんな濃密な『 死 』を真正面から浴びせられながらも、ダンテは全く怯まずに銃口を彼女の眉間にポイントし続ける。





 路地裏にしてアルトリアと退治するこのダンテという男は、とある都市のスラムで裏渡世の便利屋を営む変わり者である。
 彼の武勇伝は、枚挙に暇が無い。

 曰く、ウージーを持った悪党1ダースを相手に、背中の両手剣一本で切り抜けた。
 曰く、空を切り裂く弾丸が鼻先1インチを通ろうとも、眉ひとつ動かさなかった。
 曰く、彼の逆鱗に触れた組織を、たった数日で壊滅寸前まで追い込んだ。

 どれも悪い冗談としか聞こえない様なものばかりだが、彼をよく知る情報屋によれば、どれも掛け値なしの事実であるらしい。
 彼と彼の店の名は裏社会の顔役ですら震え上がり、『何があろうとも決して奴には関わるな』という不文律であるのだ。

 だがしかし、彼の本性は別にある。
 ここ数年目撃例が急激に増加している存在。人間界に再来した“悪魔”を狩るフリーのハンター。
 その中でも突出した実力を持つ赤いコートの悪魔狩人。
 闇の底から這い出した“悪魔”どもの天敵が、彼であるのだ。

「―――― Are You Ready?」

 不敵な笑みと浮べた彼が、挑発するように口を開いた。
 ここに最強のサーヴァントと最強のデビルハンター。アルトリアとダンテが、真の意味で邂逅を果たした。



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